美少女官能小説■site:TAMARL
自転車
僕が乗ってきたバスは、一人も客を乗せぬまま発車していく。がらんとしたバスターミナル。地方都市の一角。昼休みなのか誰もいない。
適当に決めた降りるバス停。ほんとはどっかの海岸とか鄙びた田園とかで降りる予定だったのに。
外に出る。どこにでもある地方の商店街。うだる暑さ。誰もいない通り。
初めて来た土地なのに、不思議と故郷に帰ってきたと錯覚させる懐かしい感じ。
しかし、誰もいない通り。ふっと自分がどこにいるのか分からなくなる。
真夏の昼下がり。蝉の声は聞こえない。
じりじりと照り返すいやに白い舗装道路。僕はどこへ行くともなしに歩き出す。
たちまち汗が噴きだしていく。
ちりん。
自転車のベル。
自転車に乗った少女が僕を追い越していく。田舎には似合わない垢抜けた短いスカートの制服。日焼けしたたくましい腿でペダルを踏みしばり、たちまち見えなくなる。
なんだ。やっぱ人間いるよな。
ちょっとした非現実感が消え、ただの田舎町に戻った町並みをにらんで、ちょっと息をつく。とにかくひどく暑い。
住宅街。蝉の声、あいかわらず聞こえない。
急に視界が開けたと思ったら、大きな川べりにたどり着く。
少しは涼しくなると思ったけど、川から吹き付ける風は熱風といってよく、かえって汗の勢いが増していく。
まあ、景色があるだけましかな。
土手をぶらぶら歩いていく。
遠くで見たときは新品に見えた列車橋。近くで見ると赤錆が一面に覆っている。
ふと橋梁を見下ろすと、土手の下で自転車のそばにしゃがみこんだ少女が、なにやら格闘している。
土手を降りながら声をかけてみる。
どうしたの?
えっ、ええと、チェーン外れちゃって。
そう。じゃ、みてやるよ。
辺りを見回して落ちていた木の枝をひろう。
少女に代わってしゃがみこむ。
すみません。直ります?
ああ、素手でやるよりこうすれば簡単なんだ。
僕は枝をチェーンの下に差し込んで、ぐいっと持ち上げる……。
へええ。すごいな。
覗き込む少女。汗のにおい。
ずいぶん長いこと忘れていた、夏のにおい。
さ、これでよし。
ありがとうございます。
ショートカットがさらりと流れ落ちる。いかにも部活帰りといった日焼けした肌。
中学生らしい光の強い瞳。まぶしいものをみるようにわずかに目を細める。
お兄さん、ここらへんの人?
んー。いや。
どうして日曜日なのにスーツなの?
ああ、就活さ。ほんとうは今日は二次面だったんだけど。
急にいやになって逃げ出したとか?
む。キミは超能力でもあるの?
かもね。
澄ました表情。中学生。続くはずもない。あはは。笑い声。
わかるよ。あたしも、あ、あたし陸上やってるんだけど、あたしも大会の前の日は逃げ出したくなるもん。
蝉の声。相変わらず聞こえない。
それより、この自転車ずいぶんくたびれてるよ。新しいのにすればいいのに。
だって、チェーンが外れたら戻せばいいだけだし。
川を渡る風が少しだけ強くなり、汗がすっと引いていくのが分かる。
あたし、なんか当たり前のこと言ってますね。
そう言って少女はまた、あははと笑う。
少女が自転車にまたがる。
ひらりと舞う短いスカート。目をそらす。
ありがとう。お兄さん。
サドルに足をかけたまま少女。
あのさ。
何?
いや。なんでもない。
ふふ。
少女は意味ありげに笑う。わずかに大人びた表情。
じゃね。
ちりん。
もう一度声をかけようと口を開きかける。橋の上を列車が轟音を立てて通り過ぎる。
自転車の姿はもう見えない。
商店街に戻ろうと土手をゆっくり登っていく。
そうだ、自転車を買おうか。
僕は唐突にそう思う。
ふと気がつくと、あたりには蝉たちが、うるさいぐらいに鳴いていた。
Jun. 23 2003